
2025.8/28
粉青沙器彫花牡丹文扁壺 工芸青花15号
「工芸青花」内のコーナー「精華抄」にて過去にご掲載いただきました品物を改めてご紹介します。
(撮影 菅野康晴)
粉青沙器彫花牡丹文扁壺 朝鮮時代15世紀 高19.7cm
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扁壺は朝鮮時代に流行した酒器。ぽってりと丸く角のない形をした本作は、刷毛で白泥が施された上から、繁々と葉を伸ばした牡丹文や鱗のような波線文などが彫られ、全体を覆っている。灰色の磁胎、薄衣のような刷毛目、線刻文様、釉薬の淡い緑色が響き合い、透明感のある幾層ものレイヤー、そしてリズムの異なる装飾が、ひとつの壺を複雑で奥行きのあるものにしている。
白化粧を用いたやきもの(粉青沙器)が登場するのは14世紀末。200年余りの短い製造期間の中で、印花、面象嵌、線象嵌、掻落、線刻、刷毛目、粉引など、様々な装飾技法が登場した。これらは高麗王朝の滅亡と朝鮮王朝の建国というモメントを背景に、陶磁器においても造形思想の刷新が試みられたためである。それはつまり、白を志向すること、そして描画的な文様への変化だった。そのような点から言えば、朝鮮半島の陶磁史上、この時ほどイノベーティブな時代はなかったのかもしれない。本作のような線刻技法や刷毛目による白化粧が主流となるのは15世紀後半で、粉青沙器が民需に徹していく頃にあたる。線刻粉青に型破りで自由闊達なものが多いのは、中国陶磁の規範や官庁の統制を離れたからこそなのだろう。日本の茶人たちはその逸脱した美を讃え、扁壺は花器として珍重されたが、のびのびとした生命力あるその美しさは、現代の私たちにも新鮮な驚きを与えてくれる。
(大塚美術 / 大塚麻央)
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新潮社 『工芸青花』第15号 精華抄 より