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2020.2/6

李朝鎬文盒子 工芸青花13号

工芸青花13号が刊行されました。
今回弊店からは、李朝鎬文盒子をご紹介させて頂いております。



李朝の人々にとって儒教の理念に基づいた祭祀がどれほど重要であったかは計り知れない。宮廷では宗廟を、士・大夫・庶人らの家庭では家廟を設け、祖先を敬い祀った。食物や酒などを祖先に捧げるための祭器は、李朝初期には中国青銅器の形を範としたものが造られたが、儒教祭祀の一般化に伴って一七世紀頃から李朝独特の器形や造形が現れるようになった。また朝鮮半島では銅の産出が少なかったことから、元より金属製祭器の生産には限界があり、そのことによりかえって陶磁器ならではの意匠が生みだされた。李朝後期に多く用いられた鎬文もそのひとつだろう。本作は全体を放射状に鎬文が覆っている。直線的な厳しさのある蓋に対して身はふっくらと丸く、儒教的な美学を感じさせる。コントラストが明快なのは器形に合わせて鎬文の太さを変化させているからだろう。



一九二二年に創立し、朝鮮最初で唯一の美術品競売会社となった京城美術惧楽部で開催された、土井賓一所蔵品の売立目録(一九三九年)にこの作品は掲載されている。浅川伯教による目録序文には、ふたりが売立を前にしてひとつひとつの品を手に取り、「何だか日記を見る様な気がいたします」という言葉が交わされた様子が書かれいる。京城美術惧楽部の売立では、今では主要な美術館に収まっている名品の数々が出品された。こうした品々が掲載された売立目録はそれ自体も愛好家にとって貴重な資料だが、その中にはいまだ所在の分からない作品も多い。初期の李朝数寄者の手から大切に伝えられた作品である。



※ご売約済みとなっております。

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