沖縄といえば青い海。
海ももちろん旅の目的でしたが、今回楽しみにしていたひとつは山の沖縄。
「やんばる(山原)」と呼ばれる本島北部のエリアが最初の目的地です。

〈大宜味村喜如嘉の集落の景色〉
地元の方々が住んでいる集落に泊めて頂ける宿を手配したのですが、今回泊まることになったのは大宜味村(おおぎみそん)喜如嘉(きじょか)のとある民家。
到着するまではあまりピンと来ていなかったのですが…、喜如嘉は芭蕉布の産地として有名な場所です。宿泊した民家は、いまも芭蕉布の職人さんたちが腕を磨いている芭蕉布会館と目と鼻の先という立地でした。
さっそく集落を散策しに出かけると、あちこちに現れる芭蕉の畑。

〈糸芭蕉の畑〉

〈糸芭蕉についた花。根元には小さな実(バナナ)〉
芭蕉のなかでも染織品の原料となるのは糸芭蕉という種類で、いまもこれらの畑では芭蕉布の原料にするための糸芭蕉が、集落の方々の手で育てられているそうです。
材料となる繊維を収穫するまで、数年間育てるそうですが、収穫したばかりでまた新たな芽が出ている畑や、より強い茎を作るために葉の間引きが行われている畑など、手をかけて大切に育てている様子を垣間見ることができました。

〈収穫したばかりの芭蕉の畑。新芽が出ている〉
芭蕉といえば大きな葉のイメージがありますが、布の原料となるのは、太い幹の部分。
幹には年輪のように繊維が通ってて、外側の繊維は太く、内側にいくほど細い繊維なのだとか。そのため、外側はテーブルクロスなど硬い素材がよい製品のために使われ、着物などには内側に近い、より厳選された細い繊維が使われるそうです。
息子は大きな芭蕉の葉が珍しかったのか、間引きで切り落とされた葉に道で拾った貝を包んで遊んでいました。すぐ歩いて行ける距離に山の自然と海の自然が共存しています。

芭蕉布会館の内部は撮影禁止でしたが、実際の制作工程の説明や、実際に職人さんたちが織っている様子を見学することができました。
原料となる糸芭蕉の栽培から、「苧引き(うーびき)」と呼ばれる繊維の取り出し、灰汁で煮る繊維の精製、糸紡ぎ、染色、そしてようやく織るところまで、人の手で多くの工程を経てようやく一枚の布ができあがるそうです。

〈芭蕉布会館〉
“芭蕉布はとても手のかかる高価な染織品”というイメージは持っていましたが、実際にその工程を詳しく知ると想像以上のものだな…と。
古布でも希少で人気が高い芭蕉布ですが、現代の芭蕉布の着物や帯が数百万の価格がすることにとても驚いたことがありました。これだけの工程を経てできていることを知って、そりゃそうだよな…と。
5月初頭でしたが、すでに蒸し暑く強い日差し…かとおもったら急に雨が降ってきて…という独特の亜熱帯の気候。芭蕉布のようなハリがあってさらりとした素材は、このような気候にはさぞかし心地よいでしょう。販売していたシャツも素敵でしたが、あまりに高価で手が届かず…諦めました。

〈芭蕉布の実演展示、集落の工芸店にて〉
宿に置いてあった本に載っていた、東京から芭蕉布に魅せられて職人を目指し、喜如嘉に移住したある女性のお話。
その方は、芭蕉布を作りたいと何度も弟子入りを志願したけれど、「芭蕉布は喜如嘉の人に作って欲しい」という理由で断られていたそうです。
最終的には弟子入りを許されて、いまは喜如嘉で生活しながら芭蕉布を作っているそうですが、「喜如嘉の人に作って欲しい」という思いは、芭蕉布が単なる工芸技術や特産物ではなく、喜如嘉という場所や自然風土、人の暮らしや習俗と結びついていると地元の人たちは考えているからこそ湧いてくるものなのかな、と考えさせられました。

〈拾った芭蕉の花びらをリングトレイにして余韻に浸りました…〉

〈集落のフクギ並木〉
芭蕉以外にも、地域の植物が人の暮らしに根付いていることがとても印象的です。
例えば、福木(フクギ)。
硬い葉が密に茂るフクギは風の強い沖縄の防風林として植えられたそうです。確かに、海風が強い時でも、福木並木に入るとその風がピタッとやみ、まるで別の世界にいるようでした。そのフクギは鮮やかで美しい黄色の染料にもなるため、芭蕉布の染色にも使われてきました。

〈月桃の花〉
そしてこちらは、月桃(ゲットウ)。
月桃の葉をちぎって揉むと、清涼感がありながらも甘くスパイシーななんとも言えない芳香がします。
この葉でおにぎりを包んだり、ちまきのように蒸したり、健康長寿を支える地域の食にも取り入れられていました。

〈月桃の葉で包んだちまき〉
集落の一番奥地に、地元の人たちが大切にしている七滝という滝があるということで、訪れました。
生活の気配が強い集落とは打って変わり、ひんやりとした静かな場所。
花が供えられていたり、神聖な場所であることがすぐにわかります。
沖縄では仏教や神道的なものを見かけることがあまりありませんでした。聞くところによると先祖信仰や自然信仰が主だそうで、いまも集落ごとの神聖な自然を大切にする精神が失われることなく息づいているようです。

〈喜如嘉の七滝〉
骨董商は世界中の様々な時代や場所の物に触れますが、実際にその場所を訪れてみると物そのものの美しさだけではないルーツを肌で感じることがあります。
今回は久しぶりにそんな旅となりました。

〈古布の芭蕉布(縞)で作ったマット *非売品〉
こちらは以前、仕覆の先生が作ってくださった、古布の芭蕉布(縞の方)を使ったマットです。
「このくらいの大きさのものでもなかなか手に入らないのよ〜」と仰っていたことをよく覚えています。李朝の小壺に蕾バラを生けて、飾ってみました。
[文|大塚麻央]

