Blog

2017.3/13

李朝白磁壺 工芸青花 7号

JR3A1561

白磁丸壺 李朝時代17世紀後半 高27.5㎝

-----
 かつて彫刻家を志した浅川伯教(1884-1964)は、李朝の白磁丸壷に強く心惹かれ、その迫りくるものに彫刻的効果を見出した。白一色の球体という、抽象を極めた造形ながら、最小限の要素が響き合う様子は、誰しもが充実した美しさを感ずるところと思う。美しく思って眺めていると、ふと心に入って寄り添い、関心のない時には、あちらも息を潜めて知らぬふりをする感じもある。多様な心象を残す、豊かな存在なのである。

 十六世紀末と十七世紀前半の、日本と清国による相次ぐ戦役と、その復興に始まる時代が、李朝中期である。白磁丸壷は、朝鮮らしさが花開いたこの時代に生まれ、今日まで李朝陶磁を象徴し続けている。
 中ぶりの丸壷である本作は、器高と径がほぼ一対一の理想的な形である。均整のとれた姿で、器壁は驚くほどに薄い。このような大器を、余分な厚みが出ぬよう、轆轤で引き上げる難しさは計り知れず、陶工の卓抜した技量がしのばれる。
 口造りは、丸みを帯びた「く」の字状で厚く、この期に特徴的な様式である。細部だが、こうした丁寧な造りが、作品の気品を高める見所となっている。黄味にも青味にも振れない雪白色と、粉を吹いたような釉膚が味わい深い。裏に大きなひび割れと滲みがあるが、これが独特の膚合いを伝え、李朝数寄には嬉しい。

 一口に白磁丸壷と言っても、その個性は幅広い。二号掲載の、おおどかな印象の白磁丸壷とは打って変わり、全体に鋭い造形感覚のゆき渡った、端正な趣の作である。

(大塚麻央/大塚美術)
-----

新潮社 『工芸青花』第7号 精華抄 より

一覧へ戻る