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2020.1/7

銅鏃の縁

新年の営業がスタートしました。
皆様今年もどうぞよろしくお願い致します。

最初のブログは、古美術が繋いだ不思議なご縁のお話を。



2年ほど前に手に入れた古墳時代の銅鏃。
全長10㎝ほどの小さな考古遺物ですが(それでも銅鏃では最大級ですっ)、シャープな形と軽やかな曲線、緑青の美しさにも惹かれた品でした。

これは、鏃(やじり)だった銅鏃が徐々に実用的価値を失い、かわりに権力の象徴として古墳に納められるようになった古墳時代前期も終わり頃のもの。京都府長岡京市にある長法寺南原古墳などから類品が発掘されています。

道具として作られたものが、機能や生産性などの問題から衰退し、別のものに取って替わられる…モノの歴史はその連続。ですが実用としての意味を失った時に、今度は象徴としての美しさが際立ってくる、という現象が時折見られます。

用途から離れ、人の創造性やオリジナリティによって生まれた姿形。
この小さな銅鏃にもその新鮮さを感じることができるなぁ・・・と思っていたのでした。


インスタグラムで紹介すると関西にお住まいのお客様からご連絡があり、この品と作行きも状態もそっくりな品をお持ちとのこと。長岡京から過去に出土した2点のほか、類似のものが同じく古墳時代前期の大阪府柏原市・松岳山古墳でも2つ発見されていることを教えて頂きました。既にお持ちだったものを見せていただき並べてみると、本当にそっくり。細かな作りもよく似ていました。



大変熱心なそのお客様は、専門家の方に調査を依頼されたそうです。そしてこの2点の銅鏃も過去の出土品と同タイプの新例と認められ、6個の類品が存在していることとなったのです。

お客様が見つけられた2点と、更に最近になって長岡京で発見されたもう1点を加えた3つの新出資料に関する研究が発表されたそうで、先日お送り頂きました。
論文を発表されたのは鳥取大学の高田健一先生で、弥生時代から古墳時代にかけての金属器がご専門なのだそうです。
ご論文では、新出品の仔細な調査結果と共に、製造技法などに関して興味深い考察をされておられます。



個人的には、こうしたスペシャルな銅鏃に込められた古墳時代の人々の思いは?というのがやはり一番気になるところ。こんなに小さな遺物にも、きちんと古人の精神が宿っていると思うと、胸が躍ります。

何よりも、ばらばらになっていた新資料を2つも発見され、専門家の方に働きかけてご研究に貢献された、お客様の熱意には感服です。そしてこの発見を論文という形で結実された研究者様の熱意にも。

お客様いわく、「モノも集まりたがっている」のではと。
古墳時代の特別な想いが宿されたものにあって、ただならぬ縁を感じずにはいられませんでした。

新しい発見にほんの少しだけ立ち会うことができ、嬉しく思った出来事です。


※お客様の許可を得て、作品の掲載、ご論文の紹介をさせていただきました。ありがとうございました。

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