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2021.3/6

初期伊万里丸紋壺

新しい仕入れがあれば、まずは作品鑑賞から始まります。

今日は、初期伊万里丸紋壺をめぐる店内での一コマをお届けします。







-愛らしい壺ですね。どういったものですか?

これは初期伊万里のものです。高く立ち上がった首、自然に張り出した肩から高台に向けてすぼまっていくスタイルは初期伊万里の壺に典型的な形ですね。



–初期伊万里というと制作年代は江戸初期ですね。

そうですね。江戸初期、元和(1615-1624) 〜寛永(1624-1645)年間といったところでしょう。



–文様も可愛いらしいです。

肩の部分、3方向に丸紋が描かれています。白抜きした菊花と捻文を重ねたもの、巴文、そして再び菊花文。 シンプルですが日本的でモダンな印象があります。初期伊万里はピークの頃の値段に比べたらだいぶ入手しやすくなりましたが、ちょっと気の利いたデザインや数寄者好みのものは、現在のマーケットでもきちんとした値段が付いている印象です。同業者にも人気が高いですよね。


 


–丸紋は初期伊万里に多い文様なのでしょうか?

そうとも言えません。初期伊万里には壺や皿などにも用いられていますが、藍九谷様式のもの、また織部などの美濃陶でも見つけることができます。ちょうど手元にあるので見てみると、白洲さんのこの本(『器つれづれ』白洲正子著)にも織部の白抜き菊花文の皿などが載っていますよ。



–他にも伊万里の丸紋徳利も載っていますね。

作られた当時からずっと人気の文様だったんですね。日本陶磁だけではないんですよ。李朝にも丸紋があるんです。これは19世紀の盃台ですが、色々な種類の丸紋が散らされています。

形はザ・李朝ですが文様はとても日本的。



'White Porcelain In The Joseon Dynasty', Ewha Womans University Museum, 2015より


–本当ですね。これは日本陶磁の影響でしょうかね?

19世紀の李朝には日本陶磁の影響を受けたものがちらほら見られます。朝鮮から陶工が九州地方にやってきて、日本で初めての磁器が誕生するという、朝鮮→日本の流れが一般常識ですが、実は双方向に影響を受けあっていたんですよね。



–初期伊万里で人気だった丸紋が、19世紀の李朝で用いられているのですから。面白い作例ですね。

ひとことに丸紋といっても意外とバリエーションがあるのも面白みがあります。たとえば初期伊万里数寄者のバイブル『愛玩初期伊万里』(新谷政彦著)にはいくつか類似作が掲載されていますよ。



–どれも肩にポンポンと丸紋が施されているスタイルには変わりありませんが、竹や植物だったり幾何学文だったり、首の部分とコンビネーション文様になっていたり、多様ですね。

そうですね。この作品は丸紋以外には何もなく控えめなところに、側に置いておきたくなるような魅力があると思います。少し寂しげな感じ……。



–他にはどんな部分に魅力がありますか?

やはり初期伊万里特有の柔らかな肌ですね。知られている通り、初期伊万里は素焼きしない生掛け焼成なので反陶反磁、その点で李朝と同じなのですが、どういうわけか李朝の肌ともまた異なる。土や釉薬の違い、呉須の発色などがその違いを形作っているのでしょうね。大らかでいながら凛とした佇まい、柔らかい磁膚だけに古来からの貫入が表れていますが、そこもまた味わいとなって風格を感じさせます。




作品の詳細についてはOtsuka Fine Art onlineも御覧ください。



《本日の参考文献》

『器つれづれ』白洲正子著、世界文化社、1999年

『愛玩初期伊万里』新谷政彦著、神無書房、1987年

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